「Hands of Stone(石の拳)」の評価と感想(パナマの英雄ロベルト・デュランの映画です。)

パナマが生んだ世界的なボクサーであり、4階級の世界タイトルを制覇したロベルト・デュランの自伝的映画「ハンズ・オブ・ストーン(石の拳)」が、8月末からパナマと米国で世界に先駆けて上映されています。私の大好きなロバート・デ・ニーロがデュランの米国人トレーナーであったレイ・アーセル役として登場し好演しています。また、エドガー・ラミレスという俳優がデュラン役を演じ、ベネズエラ人のジョナサン・ヤクボウィッツという監督が脚本も手掛けています。なお、この映画の製作国はベネズエラであり、今年5月の第69回カンヌ国際映画祭で特別上映されました。

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オリジナル版の予告編はこちらです。

さて、この映画についての私の総合的な評価と感想です。ボクシングシーンの迫力は、ロバート・デ・ニーロがアカデミー主演男優賞に輝いた1980年公開の「レイジング・ブル」や最近の「ロッキー」シリーズに劣りますが、パナマの英雄的なボクサーの半生を描くことにより、米国の支配下にあったパナマ人の心境がよく伝わってくる傑作です。この映画がパナマでの封切り後、記録的な興行成績を挙げているのも頷けます。戦後の日本人が米国人レスラーを倒す力道山に感激したように、今のパナマ人は米国人ボクサーを叩きのめしてくれる祖国の英雄ロベルト・デュランを誇らしく思っているのでしょう!

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以下は、映画を観てのコメントです。写真はこのサイト(IMDb)から引用させていただきました。

♠そのパンチ力から、「石の拳(ハンズ・オブ・ストーン)」と呼ばれたデュランは1951年生まれで、10代だった1968年から何と50代になった2002年まで119試合を闘い、103試合で勝利を収めました。このらの勝利の中には、アラカン世代ならご存知の元世界チャンピオンのガッツ石松や小林弘なども含まれています。世界タイトルとしては、1972年にWBA世界ライト級タイトルを獲得し、1980年にこの映画でも宿敵として登場するシュガー・レイ・レナードを15回判定で下しWBC世界ウェルター級タイトル獲得し(2階級制覇)、さらに1983年にWBA世界スーパーウェルター級タイトルを獲得(3階級制覇)しています。映画が描くのはここまでですが、この後なんと1989年にWBC世界ミドル級タイトル獲得しています(4階級制覇)。まだ現役を続行しているフィリピン人ボクサーのマニー・パッキャオと並んで、ボクシング史上に残る名ボクサーです。

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♠デュランはパナマ市の貧困と犯罪が蔓延するチョリージョ地区で生まれ、学校にもろくに行かなかったため字が読めません。メキシコ系米国人の父親は姿をくらまし、母親と兄弟で食うにも困る生活をしていました。運河を管理するために駐留する米国人や、同じパナマ人でも上流階級に属する人間をいつかは見返してやろうと思っていた矢先に出会ったボクシングが、彼のその後の人生を大きく変えます。この映画は、デュランの成長を描く過程でパナマの近代史についても教えてくれます。

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♠ロッキーの映画で、ロッキーとライバルであるアポロの双方の妻や家族が描かれていたように、この映画でもデュランとライバルであるシュガー・レイ・レナードの妻や家族が描かれます。デュランは、1980年にシュガー・レイ・レナードを破って世界チャンピオンになりましたが、興行優先で組まれた5ヶ月後のレベンジマッチでは減量がうまくいかず、「No Mas(もうたくさんだ)」と言って途中で試合を放棄したエピソードは有名です。その後の彼はしばらく低迷しますが、完全に落ち込んだ彼を励まし、再び世界の頂点に導いたのは妻の励ましでした。どん底から這い上がった男の栄光と挫折こそ、この映画が描きたかったデュランの姿でしょう。

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♠シュガー・レイ・レナードを演じるアッシャーという役者も、米国では知られた歌手兼俳優らしいです。シュガー・レイ・レナードのレイ(Ray)というのは、有名な盲目の黒人歌手レイ・チャールズに因んでいるらしいです。デュランのリベンジマッチでは、リング上でレイ・チャールズが歌う姿が描かれます。また、シュガー・レイ・レナードはデュランのライバルであり友人でもあったようで、デュランが復活を賭けた世界戦では控え室まで行って彼を励ましています。

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♠さて、私の好きなロバート・デ・ニーロは今回はトレーナー役で登場します。「ボクシングはストラテジーだ!」というトレーナーの助言があったこそ、無鉄砲なデュランが世界の頂点に到達できたようです。ラウンド毎の休憩タイムの最後にいつもデュランの乱れた髪を整えていたエピソードは面白かったです。この映画、日本での公開は未定ですが、パナマに住んでいて良かったと思える傑作でした!

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