「スポットライト 世紀のスクープ」(原題 Spotlight)の感想と評価(2016年アカデミー作品賞、監督賞他にノミネートされている作品ですが…)

 

2016年のアカデミー作品賞他にノミネートされ、日本では4月に公開予定の「スポットライト 世紀のスクープ」は、パナマでは先週から公開されています。例によってパナマで一番いい映画館「Cinepolis Vips」で観てきました。

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この映画館の中には、なんとバーカウンターもあります。

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さて、この映画についての私の総合的な評価と感想です。カトリック教会のスキャンダルを暴こうとする熱血記者たちの姿を、役者のセリフと演技力だけで描き切った重厚かつ本格的なドラマ作品です。アカデミーの作品賞はライバルが多くて微妙ですが、監督賞ないし脚本賞ならば可能性が高いと思います。でも、アカデミーの作品賞は脚本が優れている作品が受賞する傾向があることを考慮すると、この映画はダークホース的な位置づけにあると思います。

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日本語版の予告編はこちらです。

 

映画.COMからあらすじを引用させていただきます。

新聞記者たちがカトリック教会のスキャンダルを暴いた実話を、「扉をたたく人」のトム・マッカーシー監督が映画化した実録ドラマ。2002年、アメリカの新聞「ボストン・グローブ」が、「SPOTLIGHT」と名の付いた新聞一面に、神父による性的虐待と、カトリック教会がその事実を看過していたというスキャンダルを白日の下に晒す記事を掲載した。社会で大きな権力を握る人物たちを失脚へと追い込むことになる、記者生命をかけた戦いに挑む人々の姿を、緊迫感たっぷりに描き出した。アカデミー賞受賞作「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で復活を遂げたマイケル・キートンほか、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムスら豪華キャストが共演。

 

以下は、映画を観てのコメントです。写真はこのサイト(IMDb)から引用させていただきました。

♥世の中の権力者を失脚に追い込んだ新聞記者たちを描いた映画ということで、1976年公開の米国映画「大統領の陰謀(原題:All the President’s Men)」を思い出しました。若き日のロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンが演じるワシントン・ポストの記者が暴露した「ウォーターゲート事件」の真相は、当時のニクソン大統領を辞任に追い込みました。あの映画の公開から約40年かと思うと、まさに光陰矢の如しです。

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♥この映画を理解するためには、カトリック教会について少し知る必要があります。キリスト教には、カトリック以外に16世紀の宗教改革以来広まったプロテスタントやギリシャ正教などの教派がありますが、カトリックはローマ法王を中心として全世界に12億人以上の信徒を有する最大の教派です。ヨーロッパのラテン系の国、すなわちフランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、さらに中南米のスペイン語圏やポルトガル語圏(ブラジル)では、国民の大多数がカトリックの信者です。米国ではプロテスタントの信者が多いですが、この映画に登場するマサチューセッツ州やその州都であるボストンを始めカトリックの信者が多く住むところもあります。

♥ところで、カトリック教会の頂点に君臨するローマ法王がいかに尊厳のある存在であるかをご理解いただくために、昨年7月11日の私のブログの記事から引用します。

日本ではあまり報道されていませんが、先週はアルゼンチン出身のフランシスコ・ローマ法王がエクアドル、ボリビア、パナグアイを訪れ、各国で歓迎を受けました。CNNのスペイン語チャンネルであるCNN Españolも連日長時間の番組を組んで報道していました。特に最後の訪問国であるパラグアイのカアグアスで11日に行われた野外ミサには、隣国のアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイなどからも大統領を含めて多くの人が参列し、なんと100万人規模の集会となりました。日本では、あのGLAY(グレイ)でさえ野外ライブでどんなに頑張っても20万人程度ですから、その影響力はすごいです。隣国から出席した大統領はどの人も最近はパッとしませんが、ラテンアメリカの多くの国民は自国のトップよりもはるかに信頼できる精神的な支柱としてローマ法王を尊敬しているようです。

♥余談ですが、私の住むパナマも他の中南米諸国と同じく、国民の大多数はカトリック教徒です。不思議なことに、この映画のパナマでの公開は封切から一週間ほどで終わりました。また、同じく中米にあるホンジュラスでは、理由はよく分かりませんが、上映すらされないそうです。「カトリック教会の圧力か?」と思うのは考えすぎでしょうか。アカデミー作品賞にノミネートされていますが、プロテスタントが多い自由の国アメリカとはいえ、作品の内容が賞の最終選考に影響を及ぼす可能性はあると思います。

♥さて、映画の中身に関する話です。この映画の原題「Spotlight」、さらにスペイン語のタイトル「En Primera Plana」とは新聞の一面の意味です。アメリカの新聞「ボストン・グローブ」では、「Spotlight」とは一面に掲載されるスクープ的な特集記事を意味します。「Spotlight」に載る記事を担当するチームは新聞社の中では独立していて、そこで働く記者は社の同僚や家族にさえ自分たちが何を追っているのかを秘密にしています。彼らに指示したり報告を受けるのは、社の編集長と副編集長だけです。

♥「Spotlight」チームのリーダーは、2015年のアカデミー作品賞「バードマン」で主演したマイケル・キートンです(写真の一番左)。今回の作品でも、冷静沈着なリーダー役で好演しています。チームの紅一点の記者を演じるレイチェル・マクアダムス(写真の右から3番目)は、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされています。仕事と家庭を両立させ、女性らしい優しさと気遣いで事件の関係者に接し、貴重な情報を収集します。同じくチームのメンバーで、正義感に溢れる熱血漢を演じるマーク・ラファロ(写真の左から3番目)も助演男優賞にノミネートされています。この3人にもう一人(写真の一番右)を加えた4人がチームのメンバーです。面白いことに、この4人はいずれもカトリック教徒という設定です。カトリック教徒で構成されるチームに、かつてうやむやになったカトリック教会のスキャンダルを再び追えと指示するのが、フロリダの新聞社から転身してきたユダヤ人の編集長です(写真の左から2番目)。ユダヤ人なので、宗教は当然ユダヤ教です。よそ者なのでボストンの社会や文化(例えばレッドソックスの野球)にもあまり関心が無さそうで、スクープ記事を狙ってクールに淡々と仕事を進める姿が印象的です。「ボストン・グローブ」のスクープ記事は、こんな偶然とも思われる経緯から生まれたことも興味深いです。

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♥さて、最初は編集長の指示に戸惑ったチームのメンバーですが、次第に記者としての使命感に目覚め、カトリック教会の関係者からの執拗な圧力や裁判記録の隠滅などの妨害にも屈せず、被害者を含めた関係者への取材活動を進めます。この映画では、個々のメンバーの取材活動のシーンが同時進行的にスリリングに展開します。その結果、ボストン地区だけでも、数十人もの神父による子供への性的虐待と、それらを教会が組織ぐるみで隠蔽してきた衝撃のスキャンダルが明らかになります。2002年1月にボストン・グローブ紙は「スポットライト」一面の記事で、ボストン地区の司祭ジョン・ゲーガン神父が6つの小教区に携わった30年にわたり、延べ130人もの児童に対する性的虐待を行って訴訟を起こされたこと、またカトリック教会はゲーガン神父に対して他の教会に異動させただけで何の処分を行わなかったことを明らかにします。ボストン地区の大司教バーナード・フランシス・ローは、自身の教区に属するゲーガンへの対応に関して、世論の厳しい批判を受け辞任に追い込まれます。映画の最後の字幕では、このスクープ記事をきっかけに、全米の各地で性的虐待の被害者が声を上げ、この声はさらに世界中に広がり、やがてカトリック教会の根幹を揺るがす事態になったと説明されます。

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♥2002年1月と言えば、日本人にとっては前年の9月に米国で起きた同時多発テロ事件の記憶が生々しかった頃だと思いますが、あの頃に世界を揺るがすようなもう一つの出来事があったのかと、この映画を観て学んだ次第です。カトリック教会のスキャンダルという、多くの日本人にとっては馴染みの薄いテーマを扱ったこの映画は、日本でどのように評価されるでしょう。

 

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