キューバは政権が移行しても何も変わらない国です?

4月19日、キューバの国家元首に当たる国家評議会議長であった86歳のラウル・カストロ氏(Raúl Castro)が引退し、58歳のディアスカネル(Díaz-Canel )氏が就任しました(写真はGranma紙から引用しました。)

社会主義国家であるキューバの政治体制は、一応三権分立になっていますが、少し分かりにくいです。まず、行政部門として国家元首(大統領)に当たる国家評議会議長、さらに首相に当たる閣僚評議会議長が存在します。また、立法部門として国会に当たる⼈⺠権⼒全国会議、さらに司法部門として人民最高裁判所があります。

そして、最もキューバらしい特徴は、憲法上これらの三権の上に国の最高指導機関としてキューバ共産党が存在し、事実上は党のトップ(キューバ共産党第一書記)が大統領である国家評議会議長を抑えて国のトップとして君臨しています。

ラウル・カストロ氏とその兄である革命の英雄フィデル・カストロ氏は、キューバ共産党第一書記、国家評議会議長、閣僚評議会議長、さらに国軍の最高司令官を兼務する絶大な権力者でした。今回、ディアスカネル氏がラウル・カストロ氏から継承したのは国家評議会議長と閣僚評議会議長の地位であり、ラウル・カストロ氏は依然としてキューバ共産党第一書記(とりあえずの任期は2021年まで)、さらに実質的にこの国の経済を牛耳っている国軍の最高司令官として君臨しています。

したがって、ディアスカネル氏はその就任演説で、「われわれ⾰命家のすべてが指導者であるフィデルとラウル(のカストロ兄弟)に忠誠を誓い、現在も将来もラウル氏が国の重要事項の決定に関わる」と明言しています。

”asumo la responsabilidad con la convicción de que todos los revolucionarios seremos fieles a Fidel y a Raúl”…(Raúl Castro) “encabezará las decisiones de mayor trascendencia para el presente y el futuro de la nación”.

このような状況に対して、トランプ政権になって渡航や商取引の規制を強化している米国の国務省は早速声明を出し、「キューバ政府が国⺠に⾃由、公正で競争性のある選挙による意味のある選択を認めずに、個人の声を封じ込め、抑圧的な権⼒の独占を続けることに失望した」と批判しました。つまり、キューバで今年3月に実施された国会議員選挙(605名の定員に対して立候補者全員が当選)、さらに今回新メンバーにより開かれた国会での満場一致によるディアスカネル氏の選出も、すべて一党独裁政権の指導によるもので、国民の真の声を反映したものではないと批判しています。

We are disappointed that the Cuba government opted to silence independent voices and maintain its repressive monopoly on power, rather than allow its people a meaningful choice through free, fair, and competitive elections.

19日からは、政府がすべてを支配している新聞やテレビは、政権移行と革命運動の継続を伝えるニュース一色でした。さらに、選挙の直後には、中南米でキューバ化を目指す同盟国ベネズエラのマドゥーロ大統領が祝福のために来訪し、ディアスカネル⽒は国家元首として最初の賓客を迎えました。

さて、1959年の革命以来初めてカストロ(兄弟)以外のしかも革命を知らない世代の国家元首が誕生し、国会やマスコミは大変な盛り上がりを見せていますが、マスコミに登場しない大多数の一般市民の声はあまり聞こえてきません。私の周りにいる限られた数のキューバ人を観察した限りでは、一言で言うと冷静、人によっては諦めムードを漂わせています。それもそのはず、今回の国家元首の選出は、何年も前から共産党の方針とされていたもので、何らサプライズがありません。また、既定路線を維持することは、疲弊した計画経済システムにより困窮した国民生活の改善があまり望めないことを意味します。ラウル・カストロ氏が率いる共産党は、古典的な社会主義に基づく政治経済体制は絶対に維持しつつ、国民の経済的な生活レベルを向上させようと努力していますが、かつての社会主義国と同様にうまくいきません。トップの顔触れが変わっても、問題は先送りされたままです。スペイン語CNNの以下のコメントは、キューバの現状をうまく言い当てています。

Raúl y sus camaradas esperan que preserve el sistema, pero que también solucione o alivie las infinitas carencias que padecen los cubanos.(ラウス氏とその仲間は新政権に現在のシステムを維持することを期待しているが、同時にキューバ国民が直面している限りない欠乏を解決または改善することを期待している。)

キューバは1959年革命により米国の支配から脱し、教育と医療の無料化など他の社会主義国がなし得なかった成果を達成しましたが、かつての社会主義国と同じように計画経済システムだけはうまく機能していません。一般市民の収入は少なく(公的部門の労働者の月額平均給与は30ドル程度)、食料などの配給制度も細って、「貧困の共有」という形で何とか社会主義的な平等社会を維持しています。試行的に導入した市場経済は国民の間に経済格差を生み出し、政府は「公正」と「平等」という社会主義の理念を揺るがしつつあることから、これ以上の導入に慎重になっています。

キューバ国民の困窮の大きな原因は、現在の政治や経済のシステムにあることは明らかですが、これらをいじらずに現状の打開を求められるディアスカネル新政権の前途は険しそうです。

 

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