月額平均給与が30ドルのキューバ人はどうやって生きているのでしょう?

キューバ統計・情報事務所(Oficina Nacional de Estadística e Información)の発表によると、2016年のキューバ人(自営業者を除く)の平均給与は月額740キューバペソ(CUP)で、米国ドルに換算するとわずか29.6ドルでした(1ドル=25CUPで計算)。業種別で最高は砂糖業界(asucarero)等で1246CUP(49.8ドル)、最低は行政職(administración pública)等で510CUP(20.4ドル)でした。これまでに個人的に聞いた話では、芝刈りなどゴルフ場の整備員の給料が270CUP(10.8ドル)と一番低く、仕事を辞めた人に聞くと月額わずか250CUC(10ドル)の年金しか貰っていないと言っています。

キューバ の配給所の様子です。品物の種類も量も少ないです。

上記の給与は、キューバが誇る無料の医療や教育費、さらに基礎食料の配給などを控除した「手取り」分でです。食料の配給と言っても無料ではなく、一日1個のパン、さらに1か月分として、配給券に記載されたわずかな量の米、豆、油、粉ミルク、コーヒー等が統制された優遇価格で購入できる程度です。

1ヶ月に配給される食料品は二人分でこれだけです。

キューバ では、毎日配給されるパン一個と粉ミルクを溶かした薄い牛乳だけで朝食を済ません人が多いです。

こちらに来て話したすべてのキューバ人が認めている通り、現在のキューバでは、これらの配給食料のみで生存を維持するのは不可能です。生きるための追加の食料、さらに衣服など生活に必要な物を購入するには、月額の給与は一桁分くらい少ないようです。キューバ人が使う店で売っている皿洗い用の液体洗剤ですら25CUPで1ドルもしますし、CUP建ての農産物市場で売られている生鮮食料品も決して安くありません。

キューバ人向けの農産物市場でも買い物も1ヶ月20〜30ドルでは全く足りません。

話は脱線しますが、1946年に出版された心理学者ヴィクトール・フランケルの「夜と霧」はナチスの強制収容所での自身の体験と観察を綴った作品ですが、その中で強制労働をさせられるユダヤ人の1日の食事は小さなパン1つと具が少ない薄いスープのみだったとの記述があります。キューバ で配給される食料だけで1ヶ月の食事を賄うとすると、キューバ 人の毎日の食事はこの作品のユダヤ人並みになるはずです。

でも、周りにいるキューバ 人を見ると、強制収容所のユダヤ人のように瘦せこけた人はおらず、むしろ多くの人が肥満気味です。きっと給与以外に何か収入を得て、足りない食料や生活必需品を調達しているはずです。キューバ人がサバイバルするための「給与外所得」は、以下のような方法で得られているようです。

まずは、米国等海外に住むキューバ系住民からの海外送金です。在マイアミのThe Havana Consulting Group(THCG)の発表によれば、2016年の米国からキューバへの送金総額は過去最高の3.444百万ドルと推定され、キューバにとってニッケル等の鉱物資源輸出や観光収入に匹敵する外貨獲得源となっています。昨年6月16日の米国トランプ大統領による対キューバ政策の見直し発表では、キューバ軍傘下の企業グループとの取引や米国人の個人旅行がされましたが、米国からの海外送金は従来通り認められた点はキューバ人にとって救いでした。

ドル売りの大きなスーパーの入り口には、WESTERN UNIONという送金された外貨を受け取る窓口があります。

現在、外国人向けに兌換ペソ(=米国ドル)で商売することが前提の大きなスーパーでは、入口に米国などに住む親族や友人からのドル送金を受け取るための銀行窓口があります。こうしたスーパーの客の大半は、ドルを手に入れて「裕福」になったキューバ人です。現在のキューバの経済社会は、敵対する米国から送られてくる塩ならぬ外貨でなんとか回っている現状を見ると、表面的には敵対しつつも、死活的な問題には配慮するという両国の微妙な関係が伺えます。

ドルを手にしたキューバ人は、配給所では手に入らない食料品が購入できます。

一方、海外送金が受け取れない一般のキューバ人にとっては、ドルを合法的に入れるには、外国人向けのレストラン(paladar)や部屋貸し(casa particular)など合法的かつ限られた職種の自営業、さらにホテルやガイドなど外国人からのチップが受け取れる職業に就くしかありません。これ以外の方法でドルを得るには、外国人や外国企業と「個人的な雇用関係」を結び、合法かどうか怪しい手段で稼ぐしかありません。

パラダール(Paladar)と呼ばれる外国人向けのレストランです。

さらに、ドルが全く手に入らないキューバ人は、非合法的な横流し闇市場などで、なけなしのCUPか物々交換で払って、生きるための食料を手に入れるしかありません。それもできなければ…。こちら記事をご覧ください。

先日の記事でも述べましたが、日本では終戦直後の食料調達が困難であった時代に、食糧管理法に従った配給食料のみを食べ続け、非合法的な闇市での調達を拒否した末に餓死した裁判官の話が有名ですが、キューバではそのような話は聞きません。極度の貧困層を生み出さないために、「当局による見逃し」という最後のセーフティーネットが働いているようです。

 

よろしければ、こちらの記事もご覧ください。

キューバは、旅行するのと生活するのでは大違いの国です。(その11)今週末も闇市場にお世話になっています。

カールマルクス(Karl Marx)生誕200周年を祝うキューバで思うこと…。社会主義体制はいつも内部から崩壊します!

 

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