カールマルクス(Karl Marx)生誕200周年を祝うキューバで思うこと…。社会主義体制はいつも内部から崩壊します!

日本では、5月5日は子供の日ですが、キューバに来てこの日は社会主義の元祖カールマルクスが生まれた日であり、おまけに今年は彼の生誕200周年であることを知りました。独立の英雄ホセマルティの思想と並んで、マルクス・レーニン主義を信奉するキューバでは、新聞やテレビはマルクスに因んだ記事や番組で溢れています。(写真はGranma紙から引用しました。)

ところで、マルクスと言えば、聖書やコーランと並ぶ世界のベストセラー書物「資本論」の著者として有名です。私、1970年代に大学で経済学を専攻しましたが、当時はいわゆる近代経済学と並んでマルクス経済学の単位が必修でした。実際、多くの学生や学者が彼の著作の影響で左翼的な思想に染まっていた時代でした。私もマルクスが予言したように、将来的には資本主義が崩壊し、社会主義を経て共産主義の世界が実現するのかなと空想していました。なにせ、当時はソ連、東欧、そしてアジアの中国、北朝鮮、中南米のキューバなど社会主義諸国には勢いと影響力がありました。

マルクスの思想で一番有名なのは、「下部構造(経済体制)上部構造(政治・社会体制)を規定する」という独自の唯物史観でしょうか。市場経済(下部構造)に基づく資本主義(上部構造)の崩壊は歴史の必然であり、この世界では次の段階として計画経済(下部構造)に基づく社会主義(上部構造)が取って代わるはずでした。マルクス理論によれば、資本主義と市場経済、社会主義と計画経済がペアになっています。しかしながら実際には、社会主義に移行したどの国でも計画経済はうまく機能せず、多くの国が資本主義と市場経済のペアに戻ったり、社会主義の看板は降ろさないまでも市場経済をかなりの程度導入しています。おそらく現在の世界で、キューバは古典的なマルクス理論(社会主義と計画経済のペア)に固執している数少ない国の一つです(北朝鮮のことはよく分かりません)。

ハバナ市の「カールマルクス劇場」です。

社会主義と市場経済の組み合わせは、マルクスが生きていれば絶対に認めない体制ですので、キューバは今も生き残るマルクスの優秀な生徒の一人です。キューバでも、計画経済の行き詰まりを打開するために部分的に民間セクターや市場経済を導入していますが、資本主義の「毒」は即効的に国民の間に経済格差を生み出し、社会主義の根幹である公正や平等という価値を損ねかねない状況になっています。資本主義の「毒」を入れずに計画経済体制を立て直す方法があるのか、歴史上どの社会主義国も直面して解決できなかった問題を巡って、キューバは今後も試行錯誤を続けそうです。

経済よりも平等を最優先させた結果?

さて、資本主義は自由な市場経済に基づき、社会主義は統制された計画経済に基づくためか、歴史は社会主義国では国民の自由が相当に制限されることを教えてくれます。社会主義の対になる言葉は本来は資本主義ですが、社会主義が民主主義や自由主義という言葉に対比され、時には独裁主義的な意味で使われる場合も多いです。実際にキューバでは、かつての社会主義国と同じく、⾔論・報道の⾃由は制限され、新聞やテレビは全て国営で、インターネットの接続も制限されています。反体制派の活動家が拘束されたという話もよく聞きます。政治的な自由が無く、経済的にも行き詰まった自国の国民に対して、今は真の社会主義国家を実現するための革命運動の最中であり、「必要ならば100年戦おうじゃないか(Si necesitamos luchar más de 100 años, lucharemos)」、「社会主義か死か(Socialismo o Muerte)」、「祖国か死か(Patria o Muerte)」、「常に勝利に向かって(Hasta Victoria Siempre)」とか呼びかけても、人々がどこまで付いて来てくれるのが疑問です。米国の経済封鎖が続くうちは、外に敵を作ることで国民の目を反らすことができますが、米国が敵で無くなれば、国民の不満は自国の政治経済体制に向けられます。キューバ政府が最も恐れるのは、実は国外からの脅威ではなく、ソ連や東欧のように国内からの脅威によって現在の体制が崩れることでしょう。

5月1日のメーデーの様子です。

 

話は変わりますが、最近キューバと似た状況にある北朝鮮が、韓国や米国との関係改善に乗り出しました。北朝鮮が姿勢を変えた原因はいくつもあると思いますが、経済的な行き詰まりで国民生活が立ち行かず、このままでは国民の不満が爆発して現在の独裁体制が内部から崩壊する危機を認識しているためだと想像できます。北朝鮮もキューバも、真の敵は外ではなく内にあります。国を外に向けて解放し、危機的な状況にある経済体制(下部構造)を立て直し、なんとか現在の政治体制(上部構造)を維持しようとする作戦を展開している点で両国は共通しています。

マルクスが考えた社会主義は、人々を資本主義の矛盾や束縛から解放し、経済的にも豊かで平等な共産主義社会に導くための手段でした。しかしながら、歴史は、社会主義の維持自体が目的とされ、国民が虐げられた国の体制はいずれは内部から崩壊する運命にあることを教えてくれます。

カールマルクス(Karl Marx)生誕200周年を祝うキューバで、こんなことを考えている今日この頃です。

 

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