「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies)の感想と評価(S・スピルバーグ監督とT・ハンクス主演で期待しましたが・・・)

スティーヴン・スピルバーグが監督しトム・ハンクスが主演する「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies)は、日本では2016年1月8日に公開予定ですが、パナマでは米国と同じく10月16日から公開されています。スペイン語のタイトルは英語の直訳の「Puente de Espías」です。

オリジナル版の予告編はこちらです。

 

アカデミー賞ノミネート最有力候補の噂のある作品で、2時間以上の大作ドラマということで、封切翌日の17日にパナマ市で一番立派なVIP映画館に気合を入れて観に行きました。

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ジェット機のファーストクラスの座席のように快適なシートです。

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まずは、映画.comからあらすじを引用させていただきます。

スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演、ジョエル&イーサン・コーエン脚本と、いずれもアカデミー賞受賞歴のあるハリウッド最高峰の才能が結集し、1950~60年代の米ソ冷戦下で起こった実話を描いたサスペンスドラマ。保険の分野で着実にキャリアを積み重ねてきた弁護士ジェームズ・ドノバンは、ソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、自らが弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕らえられたアメリカ人パイロットを交換するという交渉の大役を任じられる。

 

以下は、映画を観ての感想とコメントです。写真はこちらのサイトから引用させていただきました。

♥S・スピルバーグが監督する映画は、大きくエンタメ系とドラマ系に分かれます。前者は、「ジョーズ」、「E.T.」、「インディ・ジョーンズ」、さらにこのブログでもご紹介した「ジュラシック・ワールド」など、飽きる暇も無いほどのアクションやアドベンチャーに溢れたエンタメ系の作品群です。後者は、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」(トム・ハンクス主演)、「ミュンヘン」、「リンカーン」など、史実に基づきシリアスな雰囲気でストーリーが展開するドラマ系の作品群です。今回観た「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies)は、明らかに後者のジャンルに入ります。米国とソ連が一触即発の冷戦状態にあった1950~60年代に、両国のスパイ捕虜の交換のために活躍した弁護士ジェームズ・ドノバン役をトム・ハンクスが演じます。

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♥スピルバーグの以前の監督作品「ミュンヘン」では、イスラエルの諜報機関モサドが登場しました。この映画には旧ソ連の諜報機関KGBが米国に潜伏させたスパイ(ルドルフ・アベル)と、これに対抗する米国のCIAが出てきます。まるで落合信彦の小説の世界ですが、サスペンスドラマと言う割には、ハラハラ、ドキドキ感が少なく、特に後半は盛り上がりに欠けます。ただし、映画の冒頭から登場するルドルフ・アベル役のマーク・ライランスという俳優はいい演技をしています。

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♥トム・ハンクス演じるジェームズ・ドノバンが、自分や家族の身を危険に晒してまで、何ゆえソ連のスパイであるルドルフ・アベルを弁護したり捕虜交換の仲介役をするのか、理由や背景が十分に理解できません。また、絵描きに化けているルドルフ・アベルが、何ゆえ祖国に家族を残して米国に送り込まれ、FBIやCIAに追われる身になったかも不明です。彼らが職業人として確たる信念を持つに至った経緯、例えば、生い立ちとか過去の人生経験等に関する描写がほしいところです。この映画にはプロットやストーリーはあっても、登場人物の人間描写が決定的に欠けています。映画の最後で、ルドルフ・アベルが獄中で描いたであろうジェームズ・ドノバンの肖像画を、人づてに本人に贈るシーンがあります。冷戦下においても、両国の国民に人間的な感情や交流があったことを描写したかったと思います。でも、二人の接点は映画の最初の30分程度であり、二人の信頼関係の深まりを描く部分が不足しています。

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♥東西冷戦やベルリンの壁というと、アラカンより上の世代は馴染みのあるテーマかと思います。でも、時代背景に疎い若い方が観られる場合は、ストーリーを理解するために、少し事前勉強されたほうがよろしいかと思います。第二次世界大戦の結果として、ドイツは西ドイツ(米国側)と東ドイツ(ソ連側)に分断されました。ベルリンは地理的には東ドイツの中にあった都市ですが、ドイツの首都であったため、この都市自体も西ベルリンと東ベルリンに分断されました。つまり、西ベルリンは西ドイツに、東ベルリンは東ドイツに属しました。ベルリンでは暫くの間西側と東側の交流が出来ましたが、1961年8月に突然、東ドイツ側が人々の西ドイツ側への流出を防ぐために巨大な壁を造ります。この映画は、突然移動の自由を奪われた東ベルリンの市民が困惑する様子をよく描いています。壁は西ベルリンを取り巻くように二重で造られ、二つの壁の間は緩衝地帯とされましたが、ここで東ベルリンからの多くの「脱走者」が犠牲となっています。映画のタイトルになっている橋は、当時西ベルリンと東ベルリンを繋ぎ、捕虜交換に使われていた「グリーニッカー」という橋のことです。

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♥米国CIAの作戦によりソ連上空に飛ばされた偵察機U2が撃墜される場面は、この映画唯一のアクションシーンです。機体を自爆し損ない、パラシュートで脱出したパイロットがソ連にスパイ容疑で捉えられ捕虜となります。このU2は2万フィート(約6000メートル)の高さから、巨大なアナログカメラでソ連の核兵器開発の様子を撮影しようとしたらしいです。この映画はアクションよりドラマの部分が大半を占めるために、スピルバーグの映画にしては制作費が少なかったのではと想像します。

♥主人公のジェームズ・ドノバンは、CIAの指示に従って。西ベルリン(西ドイツ)から「合法的に」に東ベルリン(東ドイツ)に潜入します。東ベルリンにあるソ連大使館の書記官(実はKGBの人間)を通じて、ルドルフ・アベルとソ連側に捕まった米国人パイロットの交換を交渉するところが後半の山場になります。実は、一対一の交換交渉のはずが、東ベルリン(ドイツ)で米国人の学生がスパイ容疑で捕まったため、一対二の交換交渉になるところから話がややこしくなります。ネタばれになるため、これ以上は語りませんが、そこからは期待したほど話は盛り上がらなかったという印象です。

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♥両国の捕虜交換は無事に終了します。ジェームズ・ドノバンは、ソ連のスパイを弁護していた頃は世間から国賊扱いされ、捕虜交換の任務に成功した後は英雄扱いされます。この映画のもう一つの謎は、主人公の妻の位置付けです。「家族を危険に晒さないで」と言いつつ、「釣りに出かける」と言って東ドイツに出かけた夫に理解を示しているようで、最後は夫を誇らしく思っているようで、妻にとって主人公はどういう存在だったのでしょう。

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♥あらすじにある通り、この映画は監督と主演以外にも、有名な脚本家が加わるなど、最強のメンバーで製作されたという触れ込みです。すでに公開された米国でも、公開前の日本の前評判でも、アカデミー賞の有力候補との声も聞かれます。しかしながら、正直のところ、たとえほかの映画賞であっても、作品賞、監督賞、主演男優等、どのジャンルの賞を取るにも何か足りない印象です。でも、今年はこれだというハリウッド映画が出てこないので、消去法的にノミネートだけはされるかもしれません。

♥アカデミー受賞作を含めて、スピルバーグの監督作品とトム・ハンクスの主演作品はほとんど観ていますが、大半の作品には楽しませてもらいました。「ブリッジ・オブ・スパイ」は決して悪い作品ではなく、それなりに楽しめますが、過去の多くの傑作に比べるとイマイチという感想です。また、次回の彼らの作品に期待したいです。

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最後に、日本向けの予告編はこちらです。

 

 

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